乳がんの症状と特徴を知って早期発見につなげよう
がん情報サービスによると、乳がんと診断される数は2019年で約97,000件に及んでいます。[注1]
乳がんは誰でも罹患するリスクがありますので、早期発見・早期治療のためにも、乳がんの症状や特徴についてよく知っておきましょう。
この記事では、乳がんの概要や主な症状、乳がんになりやすい人の特徴、早期発見の重要性について解説します。
[注1]がん情報サービス「乳房」

乳がんとはどんな病気?
乳がんとはどのような病気なのか、その概要を説明します。
乳がんについて
“乳がんは乳腺の組織にできるがんで、多くは乳管から発生します”
“男性も、女性と同様に多くは乳管からがんが発生します。”[注2]
乳がんの罹患率は基本的に年齢が上がるにつれてリスクが高くなりますが、他のがんとの大きな違いは、比較的若い年代でもがんに罹患する可能性が高いことです。
女性乳がん罹患者のうち、20代女性の罹患率は10%台ですが、30〜34歳は25%、35〜39歳は35.8%、さらに40代になると罹患率は45%を超えます。

[注3]
罹患率のピークは40代後半〜60代後半で、以降は減少しますが、女性のがんの中では特に罹患率が高いため、注意が必要です。
[注2]がん情報サービス「乳がんについて」
[注3]がん情報サービス「乳房」
乳がんの原因
乳がんの発生には、女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。[注4]
エストロゲンとは、卵巣から分泌される女性ホルモンの一種で、別名「卵胞ホルモン」と呼ばれています。
主に妊娠の準備をする役割を担っており、卵巣内にある卵胞の成熟を促して排卵に備えたり、子宮内膜を厚くして受精卵の着床をサポートしたりします。[注5]
その性質上、エストロゲンの分泌量は排卵前にピークを迎えます。
エストロゲンは初経を迎える頃に分泌量が増加し、40代以降は徐々に減少しますが、まったく分泌されないわけではないため、更年期でも乳がんに罹患する可能性はあります。
[注4]がん情報センター「乳がん 予防・検診」
[注5]SMART LIFE PROJECT「女性ホルモンとうまく付き合っていくには?〜増える月経トラブルとその対処法を基礎から知ろう〜」
乳がんの症状について

乳がんに罹患した場合に生じる主な症状について説明します。
乳がんの主な症状
乳がんに罹患すると、多くの場合、乳房にしこりができます。
他にも、乳房にえくぼやただれが発生する、左右の乳房の形に差が出る、乳頭から分泌物が出るなどの症状が見られることもあります。
乳房のしこり
しこりは乳がんの典型的な症状のひとつで、セルフチェックでは、このしこりの有無を触診で確認するのが基本です。
乳がんの場合、しこりは硬く、触っても乳房の中でほとんど動かず、かつ痛みを伴わないところが特徴です。
月経などで硬くなった状態とは触感が異なるので、セルフチェックする際は要注意です。
乳頭から出る分泌物
妊娠中または授乳中でもないのに乳頭から分泌物が出てくる状態を「乳頭異常分泌」といいます。
乳頭異常分泌は抗高血圧薬や低用量ピルなどを服用している場合や、乳腺症に罹患している場合などにも見られる症状ですが、分泌物に血液が混ざっている場合は乳がんの可能性が高いといわれています。[注6]
なお、無腫瘤性乳がんと呼ばれる症状は、しこりがなく、乳頭異常分泌だけが現れるところが特徴です。
乳頭から血の混じった分泌物が出ているけど、しこりがないから乳がんではないだろう、と自己判断するのは危険ですので、必ず医療機関を受診しましょう。
[注6]ヘルスケアラボ「乳がん」
しこり=乳がんとは限らない
しこりはリンパが腫れた時や、乳腺症、線維腺腫といった良性の疾患にかかった時にも発生します。
そのため、しこりがあるから直ちに乳がんと断定することはできませんが、自己判断は禁物です。
乳房の中に気になるしこりを見つけた場合は、医療機関を受診して検査してもらいましょう。
乳がんになりやすい人はどんな人?
乳がんの直接的な原因についてはまだ全容解明されていないものの、統計調査から、以下のような特徴がある人は乳がんリスクが高いと言われています。[注7]
● 40歳以上の人
● 未婚の人
● 高齢初産の人(出産未経験の人)
● 初潮が早く、閉経が遅い人
● 肥満の人(閉経後)
● 乳がんになった血縁者がいる人
● 良性の乳腺疾患になったことがある人
● 過去に乳がんになったことがある人
● 閉経後ホルモン補充療法の経験がある人
● 経口避妊薬(低用量ピル)の使用経験がある人
未婚の人や出産経験のない人の乳がんリスクが高くなるのは、エストロゲンの分泌量に関係しています。
妊娠のための準備を行うエストロゲンは、出産〜授乳中は著しく分泌量が減少するため、その期間中はエストロゲンの影響を受けにくくなります。
一方、出産経験のない人は、経験のある人に比べてエストロゲンにさらされる期間が長くなるため、乳がんリスクが高くなると考えられています。
特に近年は女性の社会進出にともなう晩婚化により、出産・授乳経験のない女性が増加しているため、乳がんの罹患率は上昇傾向にあります。
なお、エストロゲンは閉経を迎えると分泌量が減少しますが、脂肪細胞からも作られます。
そのため、閉経後に肥満状態にある女性は、普通体型の女性よりも乳がんのリスクが高くなると言われています。
[注7]厚生労働省「乳がんになりやすい人ってどんな人?」
乳がんを早期発見しましょう

乳がんは早期発見、早期治療することが非常に重要となります。
ここでいう「早期発見」とは、乳がんのステージがあまり進んでいない状態で病巣を発見することです。
乳がんのステージは、がんが乳房の中でどのくらい広がっているか、リンパ節への転移があるか、骨や肺など乳房から離れた臓器への転移があるかどうかなどによって、0期〜Ⅳ期に区分されています。
がん情報センターが公開している「がんの統計2022」によると、乳がんにおけるT〜Ⅳステージ別の10年相対生存率は以下のようになっています。[注8][注9]
ステージ | 概要 | 10年相対生存率 |
---|---|---|
Ⅰ | がんの大きさが2cm以下で、リンパ節や他の臓器への転移がない | 98.3% |
ⅡA |
● がんの大きさが2cm以下で、脇の下のリンパ節に転移しているが、リンパ節は動く ● がんが2cmから5cm以下でリンパ節や他の臓器への転移なし |
88.7% |
ⅡB |
● がんが2〜5cm以下で、脇の下のリンパ節に転移し、そのリンパ節が動く ● がんが5cmを超える大きさで、リンパ節や他臓器への転移はない |
88.7% |
ⅢA |
● がんの大きさが5cm以下で、脇の下のリンパ節に転移し、リンパ節は動かないか、互いに癒着している、または脇の下のリンパ節に転移はないが胸骨の内側のリンパ節に転移がある ● しこりの大きさが5cm以上で、脇の下または胸骨の内側のリンパ節に転移している |
66.6% |
ⅢB |
● がんの大きさ・リンパ節への転移の有無にかかわらず、しこりが胸壁に固定されている、またはがんが皮膚に出たり皮膚が崩れたり、むくんだりしている ● しこりがない炎症性乳がん |
66.6% |
ⅢC |
● がんの大きさに関わらず、脇の下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移がある ● 鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある |
66.6% |
Ⅳ | 骨や肺、肝臓、脳など、乳房から離れた臓器への転移がある | 18.5% |
ステージⅠで早期発見・治療した場合の10年相対生存率は約98%に上りますが、ステージⅣまで進行した場合は20%以下まで落ち込んでしまいます。
このように、ステージが進むほど10年相対生存率は減少していきますので、早期発見することが生存率を高める重要な要素となります。
乳がんを早期発見するためには、自宅でのセルフチェックに加え、定期的に乳がん検診を受けることが大切です。
なお、医療機関で受けられる乳がん検査には、以下のような種類があります。
[注9]がん情報サービス「がんの統計2022」p112
視診・触診
視診とは、えくぼやただれの有無、乳房の形の左右差、乳頭分泌物の有無などを目で見て確認する検査です。
触診は指で触ってしこりの有無や大きさ、硬さ、動き方などを確認します。
マンモグラフィ
マンモグラフィとは乳房専用のX線検査のことです。
2枚の板の間に乳房を挟んで圧迫した状態で撮影し、病変の位置や広がりを調べます。
超音波(エコー)検査
超音波検査とは、乳房の表面から超音波を当てることで、乳房内を検査する方法です。
乳房内の病変の有無や、しこりの性状、大きさ、脇の下など周囲のリンパ節への転移の有無などを調べることができます。
これらの検診で異常が見つかった場合は、病変の一部を採取して顕微鏡で調べる生検・病理検査を行い、正式に乳がんを確定診断します。
まとめ
乳がんになると、乳房内にしこりが現れるほか、乳頭から分泌物が出たり、乳房にえくぼやただれが出たりする症状が見られます。
しこりや分泌物があるからといって直ちに乳がんと断定することはできませんが、安易に自己判断して放置すると病変が悪化してしまうおそれがあります。
本記事では乳がんの主な症状についてご紹介しましたが、あくまで一般論ですので、記事の内容だけで判断するのではなく、気になる症状がある場合は必ず医師の診察を受けましょう。
乳がん検診については、40歳以上の女性は2年に1回受診するという指針がありますので、定期的に受けることをおすすめします。