5つの「認知機能」とその特徴

人は、外部からのあらゆる情報に対し、常に認知機能を働かせながら生活しています。認知機能とは、物事を正しく理解・判断し、適切に実行するための機能であり、円滑な日常生活を送るうえで必要不可欠なものです。これらの機能は高齢になるにつれて少しずつ衰えますが、何らかの原因でこの認知機能が正常に働かなくなり、日常生活に支障をきたす場合があります。これが認知症です。

認知機能にはいくつかの分類方法があります。今回はその一例として、5つに分類した場合のそれぞれの特徴を紹介しましょう。

目次

その1.「記憶力」

物事を覚えておくための能力を、記憶力といいます。私たちが意識せずとも日常的に使用している能力で、話の内容を記憶しながら会話をする、夕食に使う食材を思い出しながら買い物するなどの行為は、全てこの記憶力によって行われています。

記憶のステップには、特定の情報を脳の中に記憶として取り込む「記銘」、記銘した情報を長時間記憶に残す「保持」、そして保持された記憶を必要に応じて思い出す「想起」の3段階があります。誰でも年を取ると記憶の機能が衰えて覚えるのに手間がかかるようになりますが、認知症になると覚えること自体ができなくります。そして認知症がさらに進行すると、覚えていたことも忘れていきます。

その2.「言語能力」

相手が話す言葉や書く文字を理解したり、言葉を用いて自分の意思を伝える能力を、言語能力といいます。他人と円滑なコミュニケーションをとるために重要な能力であり、この機能が衰えると「相手の話している内容が理解できない」「言いたいことをうまく伝えられない」といった現象が起こります。

初めは、相手の言うことや書いてある文章を理解するのに時間がかかる程度の症状ですが、言語能力の低下が進むと、言葉が話せない・話の内容を理解できない・文字を書いたり理解することができないといった「失語」を招くこともあります。

その3.「判断力」

判断力という言葉は、一般的に物事を決断する能力という意味で使われることが多いですが、認知機能における判断力とは、様々な状況に対応して判断する能力になります。具体的には、物体の状態や形状を把握する「空間認識」、年月日や自分の状況を把握する「見当識」、特定のことに集中する「注意力」などが含まれます。

見当識では、まず年月日・曜日・時間の認識が低下し、季節に合った服装が選べず夏でも冬物を着るなどの現象が現われます。さらに進行すると場所の認識が低下し、自分のいる場所が把握できず迷子になる、自宅のトイレの場所が分からないという問題が起こります。最終的には人の認識ができず、家族やよく知っている人に会っても誰か分からなくなります。

ほかにも判断力が低下すると、物事に集中できずにミスが多くなる、正しい判断ができなくなり商品をお金を払わずに持ち帰る、交通違反を繰り返すといったトラブルも起こりやすく、犯罪や事故に巻き込まれるケースもあるので注意が必要です。

その4.「計算力」

数字を理解し計算する能力を、計算力といいます。数学や算数に限らず、時計を見て時間を把握する、時間配分を考える、予算を考えながら買い物をするといった能力は、全てこの計算力に該当します。

計算力が衰えると小学校低学年で習うような簡単な足し算や引き算ができなくなり、家計の管理や買い物が困難になります。レジで「合計698円です」と言われても、どの硬貨を何枚出せば698円になるか計算できず困ってしまうこともあるでしょう。その結果、買い物では1万円札など大きな額のお札ばかり使うようになり、財布の中に小銭が大量にたまりやすい傾向にあります。

その5.「遂行力」

遂行力とは、目的を成し遂げるために使う能力をいいます。人は仕事や家事をする際、行程や優先順位を頭の中で考えながら行動します。普段特に意識していなくても、料理をするにはまず食材を準備し、包丁やまな板を取り出し、食材を切り、炒めながら別の料理の下準備も進める、といった具合に遂行力を働かせながら行っています。

この機能が低下すると、順序だてて物事を行うことが難しくなり、次に何をしたらいいのか分からなくなります。そのため料理が作れない、携帯電話の掛け方が分からない、掃除の仕方が分からず部屋が常に散らかっているといった現象がみられるようになります。また同時に2つのことができない、自発的な行動ができないのも遂行力の低下が原因です。


認知機能は、普段意識することなく使っている能力ですが、どれも円滑な日常生活を過ごすうえで重要な能力です。訓練次第では機能低下を和らげることもできるため、「最近忘れやすい」「計算が苦手になった」と感じたら、早めに受診することをおすすめします。