軽度認知障害(MCI)の早期発見で認知症を予防しよう

認知症は、原因の病気が判明しておりその治療が可能な場合を除き、完全に治療する方法はいまだありません。しかし、認知症になる前の段階で予防や治療ができれば、発症を遅らせる、または回復させることも可能です。今回は認知症予備軍である軽度認知障害(MCI)について学び、認知症の予防と改善につなげましょう。

目次

軽度認知障害(MCI)とは?

健常者と認知症に中間にあたるグレーゾーンの段階を、軽度認知障害(以下、MCI)といいます。MCIは認知機能である「記憶」「決定」「理由づけ」「実行」のうちの一部に問題が生じるものの、症状の程度が軽く、認知症までは進行していない状態です。そのため周囲からの支えがあれば、日常生活にはさほど支障はありません。

認知機能と時間の経過

<MCIの3つの診断基準>

MCIの診断基準はいくつか提唱されています。

  1. 以前と違って認知機能の低下がある。本人、家族などの情報提供者、医師などによって指摘される。
  2. 記憶、遂行、注意、言語、空間認知のうち、1つ以上の認知機能障害がある。
  3. 基本的な日常生活機能は正常である。昔よりも時間を要したり、非効率であったり、間違いが多くなったりする。
  4. 認知症ではない。
    (日本神経学会:認知症疾患診療ガイドライン2017.医学書院,p153,2017.より改訂)

厚生労働省の平成26年の調査によれば、65歳以上の人のうち認知症患者は約462万人、MCIは約400万人であることが分かっています1。双方合わせるとその数は約862万人に上り、実に65歳以上の4人に1人が認知症もしくはMCIということになります。認知症もMCIも決して珍しいことではなく、誰にでも起こりうる症状と言えるでしょう。

65歳以上の4人に1人は認知症もしくはMCI

MCIの兆候と早期発見の重要性

認知症を予防するためには、いち早くMCIの兆候に気づくことが大切です。一般的に、本人や家族が違和感があり受診した時には、すでに軽度もしくは中度の認知症まで進行しているケースが多く、残念ながら完治する可能性はごくわずかです。そしてMCIの段階から認知症のステージに進行する割合は1年で約10%2です。一方、MCIの状態から健常状態に戻る率は14~44%3といわれています。「おかしいな?」と思ったら先送りにせず、なるべく早めに受診しましょう。

MCIの兆候としては以下のようなものが挙げられます。過去1、2年を振り返り、当てはまる項目があるかチェックしてみましょう。

①何度も同じ話をしたり、同じ質問をする。
②頻繁に置き忘れたり、探しものをしている。
③今まで慣れていた家事や作業に時間がかかる。
④趣味や人付き合い、外出することが億劫になった。

MCIと診断されたらどうする?

MCIは、そのまま治療せずに放置すると認知機能の低下が続き、認知症へと進行する割合が高くなっていきます。そのため、MCIの治療としては低下した機能を重点的に鍛えるトレーニングや薬物療法を行い、機能低下を防ぎます。日常生活でも、日記をつける、積極的に運動教室や文化セミナーなど地域で開催されているサークル活動などに参加する、人とコミュニケーションを図るなど意識して認知機能を使い、機能の改善や維持に努めましょう。

また認知症は、糖尿病や高血圧といった生活習慣病が大きく関与していることも分かっています。そのため、日頃から食事や生活習慣を見直し、規則正しい生活を心がけることも大切です。


MCIは、認知症の予備軍にあたるステージです。そのまま放置すると認知機能がますます低下し認知症へと進行する恐れがありますが、適切な治療と対策を行えば、認知症の発症を遅らせることが出来ます。そのためには日々の生活の中で垣間見える兆候を見落とさず、違和感を生じたら、早く受診することが大切です。

1朝田隆:都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応.厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野認知症対策総合研究,p8,2013.

2Bruscoli M, Lovestone S (2004) Is MCI really just early dementia? A systematic review of conversion studies.Int Psychogeriatr 16, 129-140

3Manly JJ, Tang MX, Schupf N, Stern Y, Vonsattel JP, Mayeux R. (2008)Frequency and course of mild cognitive impairment in a multiethnic community. Ann Neurol 63, 494-506