「加齢による物忘れ」と「認知症」はどう違うの?

年齢を重ねると「最近物忘れが増えたな」と感じることがしばしばあります。これは脳の老化が原因であり、誰にでも起こりうる自然な現象です。しかし、認知症が原因の物忘れは、加齢による物忘れとは性質が大きく異なります。今回は、加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いや見分け方について解説しましょう。

目次

「認知症」と「物忘れ」は別もの

記憶力は、20代をピークに加齢と共に減退していきます。60歳頃になると記憶力の低下に加えて判断力や適応力の衰えもみられるようになり、物忘れが次第に多くなってきます。「もしかして認知症?」と不安に感じるかもしれませんが、加齢による物忘れは自然な現象であり、認知症とは根本的に性質が異なります。

加齢による物忘れと認知症による物忘れを比較すると、以下のような違いがあります。

誰にでも起こりうる「加齢による物忘れ」の症状

加齢による物忘れには、以下のような例があります。物忘れがたびたび起こるとアルツハイマー等を疑って受診する人がいますが、このような場合は認知症の症状ではありません。

  • 眼鏡をどこに置いたか忘れてしまう
  • お昼に何を食べたか思い出せない

記憶には、①情報を覚える「記銘」、②情報を記憶として留める「保持」、そして③情報を必要に応じて思い出す「想起(再生)」の三段階があります。加齢による物忘れは③の想起(再生)の機能が低下するため、覚えたことを思い出すまでに時間がかかります。

しかし、「眼鏡を置いたこと」や「食事をしたこと」は覚えており、自分が忘れているという事実に対しては自覚があります。このように、体験の一部のみを忘れるのが加齢による物忘れです。

そのため、加齢による物忘れの場合は、「最近物忘れが増えたな」と感じることはあっても日常生活に支障はなく、認知症のように症状が進行したり記憶以外の障害がみられることもありません。

覚えておきたい「認知症による物忘れ」の症状

認知症が原因の物忘れは、自分が体験したことを丸ごと忘れてしまうのが特徴です。

  • 友達と会う約束をしたこと自体を忘れてしまう
  • 食事をしたこと自体を忘れ、食べた直後に食事を催促する
  • なじみのスーパーへ買い物に出かけたものの、道が分からなくなり家に帰れなくなった
  • 使い慣れている電化製品の使い方がわからなくなった
  • 年月日や場所、人がわからなくなる
  • 物事を計画立てて行動することができなくなり、時間がかかる

認知症が原因の場合、記憶の初期段階である①の記銘ができなくなります。そのため「約束したこと自体を覚えていない」「食事したことを忘れる」といったように、体験したこと自体を覚えていません。よって認知症による物忘れでは、何度も同じことを尋ねるといった現象が起こります。本人はそもそも体験した記憶がないので、周りが「さっき食事したよ」と伝えても「今日はまだ何も食べていない」と怒り出すこともあります。そのため、ケアには注意が必要です。

一方で、裁縫や編み物、楽器の演奏など技能を必要とする行動は物忘れの影響を受けにくいと言われています。また認知症は新しいことを覚えることが難しくなるため、①の記銘に支障をきたします

本人が「最近物忘れが多いから、受診するべきかもしれない」と感じるケースでは、多くの場合加齢による物忘れが原因と考えられます。しかし、そもそも本人が、物忘れが多いと感じていない、物忘れ以外にも日常生活に支障をきたす障害がみられるといったケースでは、認知症の恐れがあります。認知症は、早期発見・早期治療が大切です。おかしいな、と感じたら早めに専門医を受診しましょう。