生活習慣の改善が認知症予防になる
~フィンランドのFINGER研究より~

認知症の治療薬開発は世界中で進められていますが、未だ認知症完治につながる薬はありません。そんな中、フィンランドで行われているFINGER研究にて、「生活習慣の改善が、認知症の予防に効果的である」との論文が発表されました。今回は、そんなFINGER研究についてご紹介しましょう。

目次

FINGER研究とは?

認知症の中で最も多いのが、全体の約7割を占めるアルツハイマー型認知症です。しかし、アルツハイマー型認知症は完治させるのが難しく、治療は症状の進行を遅くする対処療法が行われています。そのため、近年では「認知症発症を予防するにはどうすればよいか」ということに焦点を置いた研究が進められています。2009年から2011年にかけてフィンランドで行われた「高齢者の生活習慣への介入による、認知機能障害予防の研究(通称FINGER研究)」も、そのひとつです。

この研究は、認知症のリスクがやや高い60歳から77歳までの高齢者1,260人を対象に行われました。対象者をランダムに2つのグループに分け、「生活習慣改善グループ」は食事療法、運動、脳のトレーニング、血管リスク管理など認知症発症のリスクを減らすと考えられるプログラムを、「対照グループ」はごく一般的な健康アドバイスのみを、2年間に渡って実施しました。そしてプログラム開始前、1年後、プログラムが終了した2年後に認知機能テストを行い、結果を比較しました。

重要なのは「生活習慣を総合的に見直すこと」

この研究で行われた生活習慣改善プログラムの特徴は、食生活、運動、脳トレーニングと多方面から総合的な改善を図ったことです。以下は、生活習慣改善グループが行ったプログラムの内容です。

食事療法

食事療法では、タンパク質や脂肪分を制限し、野菜と魚を中心とした食事となりました。(なお、記載されている食事基準はフィンランドのものであり、日本の基準とは異なります。)

  • タンパク質は1日に摂取する総エネルギーの10~20%
  • 脂肪分は1日に摂取する総エネルギーの25~35%。飽和脂肪酸やトランス脂肪酸は10%以下とし、オメガ3脂肪酸は1日に2.5~3g摂取する
  • 炭水化物は1日に摂取する総エネルギーの45~55%
  • 食物繊維は1日に25~30g摂取する
  • 塩分は1日5g以下
  • アルコールは1日に摂取する総エネルギーの5%以内
  • 砂糖は1日50gまで
  • バターの代わりに植物性マーガリンや菜種油を使用する
  • 少なくとも1週間に2回は魚を食べる
  • 野菜、果物、精製していない穀物、低脂肪牛乳、肉製品を積極的に摂取する など

運動

運動内容は、各対象者の体力や体調に合わせて用意され、理学療法士の指導のもとジムにて行われました。

  • 膝屈伸などのストレッチや腹筋や背筋といった筋肉トレーニングを週に1~3回
  • ウォーキングなどの有酸素運動を週2~5回 など

脳のトレーニング

脳のトレーニングは、グループセッションと個人セッションに分けて行われました。

  • グループセッション:加齢による記憶や認知能力の変化や、日常生活における対応方法の学習。コンピューターを使用しての学習速度の測定など。
  • 個人セッション:各自自宅のコンピューターを使い、ワーキングメモリー、エピソード記憶、実行機能といった認知機能を鍛えるためのプログラムを用意。1回10~15分、週3回のペースで実施。

その他リスク管理

メタボ健診や血管リスク管理として、血圧や体重、BMIなどの身体測定も定期的に行われました。

プログラム終了後の変化とは

全てのプログラムが終了したのち、「生活習慣改善グループ」と「対照グループ」の双方に対し、さまざまな認知機能テストが行われました。結果は、どちらもプログラム開始前よりも成績がアップ。しかし、その改善の程度に違いが見られました。

認知機能テストのうち、「記憶」の成績については両グループにさほど差はありませんでしたが、「実行機能」と「処理速度」は、生活習慣改善グループのほうが成績が著しく向上しました。対照グループと比較すると、実行機能は83%、処理速度に至っては150%も高くなっていたのです。一方で、対照グループは認知機能低下のリスクが生活習慣改善グループより約1.3倍高いことも分かりました。


FINGER研究によって、生活習慣を総合的に見直すことは認知機能低下を抑制する効果があることが分かりました。行われた研究内容は特別なものではなく、今日からでも始められる内容がほとんどです。この機会に自分ができることから少しずつチャレンジし、生活習慣を徐々に改善していくことで、健康と認知機能維持に努めてみてはいかがでしょうか。