歩行速度と認知機能には関係がある?

人は高齢になるにつれて、徐々に運動機能が低下します。しかし、「最近歩くスピードが遅くなったな」と感じる場合、その原因は加齢だけでなく認知機能の低下が関係しているかもしれません。歩行速度と認知機能の関係性を知り、日々の生活に運動を取り入れて認知症予防に役立てましょう。

目次

加齢に伴う歩行速度の変化

歩行は、日常生活を送るうえで重要な機能です。しかし、高齢になると股関節や膝関節といった関節の可動域(動きの範囲)が狭くなり、筋力も低下して足が上がりにくくなります。その結果、猫背になり、足がもつれたりふらついたりすることから、転倒しないよう慎重になって歩幅が狭くなり、歩行の速度が遅くなります。

また高齢者に見られる症状として、加齢と共に心身の活力が低下する虚弱状態「フレイル」や、筋肉量が減少することで全身の筋肉低下が起こる「サルコペニア」があります。どちらも歩行速度の低下が見られ、症状が進むと転倒による打撲や骨折によって寝たきりとなったり、外出しなくなって家に閉じこもりそのまま要介護生活となる可能性もあります。ほかにも、認知機能の低下の自覚および歩行速度の低下が見られる運動性認知リスクシンドローム(MCR)は、高齢になるほど発症しやすいことも分かっています。

認知機能の低下が歩行速度に現れる?

歩くという能力は、注意力・実行力・空間認識力など複数の認知機能を必要とします。よって歩行速度が遅くなることは、これらの認知能力がうまく連動していない状態であり、歩行速度の変化は認知機能の変化を示す指標になるとされています。

アメリカのオレゴン健康科学大学の研究グループは、健康な65歳以上の人たちを対象に、平均9年にわたって運動能力の低下と認知機能の関係性について調査しました*。その結果、認知症予備群である軽度認知障害(MCI)と診断された人は、健康なグループに比べ歩行速度が毎年1秒あたり0.01m遅くなっていくことが分かりました。またこの調査では、歩行速度の低下はMCIと診断されるよりも平均して約12年も前から現われるとしており、認知症やMCIを発症するよりはるか前から、その予兆として歩行速度の低下が見られることを示しています。

*“The trajectory of gait speed preceding MCI“より

歩き方のポイント

身体機能を維持し、歩行の速度を保つためには運動がかかせません。歩くという行為は、日々使う基本的な機能であり、最も手軽に行える有酸素運動のひとつでもあります。歩く際には、以下のポイントを意識しましょう。

・無理せず歩く

歩行には、全身を動かすことで血行を促進し、脳の神経を活性化する効果があります。背筋を伸ばし、歩幅が狭くならないように意識して、普段より少し速足で会話ができるくらいのペースで歩きましょう。1回20~30分程度で、週3回以上が目安です。ただし、体調が良くないときや気候が厳しいときなどは身体への負担が増えるため、時間を調節したり中止するなどして、無理のないペースで続けましょう。

・歩く習慣をつける

ウォーキングに加え、日々の生活の中に歩く機会を積極的に取り入れましょう。例えば、近所の公園までの散歩を日課にする、買い物の際には隣駅まで歩く、自転車を利用する代わりに歩く、階段を利用するなどして、歩く習慣を身につけることが大切です。