認知症の周辺症状を知ろう

認知症には、中核症状と周辺症状の2種類があります。中核症状とは脳細胞が壊れることで直接的に起こる症状であり、周辺症状とは中核症状によって二次的に起こるものをいいます。今回は、さまざまな要因が絡み合って起こる周辺症状にスポットを当てて解説していきます。

目次

周辺症状とは?

周辺症状とは、認知症の症状のうち、中核症状を原因として二次的に起こるものをいいます。別名、「行動・心理症状(BPSD)」とも呼ばれます。中核症状は記憶障害、理解・判断力の低下、実行機能障害など、脳の機能低下によって直接的に発生します。一方で、周辺症状は「長年行ってきた家事が思うようにできなくなり、そのことに落ち込んでうつ状態になった」、「見当識障害によって道順が分からなくなり、徘徊が頻繁に起こるようになった」といったように、中核症状に付随して発生します。

また周辺症状は、本人の性格、生活環境、人間関係など複数の要因が絡み合って起こります。そのため個人差が大きく、症状の現れ方や程度は人によって異なります。

周辺症状の主な種類

周辺症状には、さまざまな種類があります。主な症状を見てみましょう。

1.不安・抑うつ

認知機能が低下すると、できないことが増えて日常生活に支障が出てきます。すると不安を感じたり、気分が落ち込む抑うつ状態が見られる場合があります。また毎週サークル活動に一緒に通っていた友人が、「冬は寒くて通うのが億劫になった」とサークルを辞めたことで、「一人で参加しても楽しくない」と活動への意欲が低下し、ふさぎこんでしまうケースもあります。

2.徘徊

歩き回る「徘徊」が起こる場合もあります。これは行き先がわからなくなる記憶障害や、時間や場所が分からなくなる見当識障害などが原因で起こります。外での徘徊は事故や行方不明につながる危険性があるため、手の届かない所への鍵の設置、GPSやセンサーを使った見守りサービスの利用、自治体と民間の事業者による安否確認など、安全対策を取ることが大切です。

3.幻覚・錯覚

実在しないものを実在するかのように体験する「幻覚」や、実在するものを事実と違ったものとして認識する「錯覚」も周辺症状のひとつです。認知症機能の低下によって起こります。幻視は、「子供や小動物が遊んでいる」と話すなど、視覚上の幻覚です。ほかに幻聴、幻味、幻臭、幻触、体感幻覚などもあります。

4.暴力・暴言

脳に障害を受けている影響で、思うように言葉を伝えられないもどかしさ、不安、不満、いら立ちを抑えきれずに、暴力・暴言となって現れることがあります。穏やかな性格だった人が、認知症になってから人が変わったように怒りっぽくなったり、暴れたりする場合もあります。

5.睡眠障害

高齢になると、睡眠時間が短く眠りが浅くなりやすいほか、夜間にトイレが近くなって何度も起きるなど、熟睡しにくくなります。さらに認知症になると、ベッド上で過ごす時間が長くなり、体内時計の調節がうまくいかずに睡眠のリズムが崩れやすくなります。その結果、不眠や昼夜逆転といった睡眠障害が現われる場合があります。

良質な睡眠を確保できないと日中の生活にも悪影響を及ぼします。そのため、起床時間を決めて目覚まし時計をかける、朝起きたらカーテンや窓を開ける、日中は起きて活動をするなど、規則正しい日常生活を心がけることが大切です。

6.物盗られ妄想・せん妄

「物盗られ妄想」は、よく見られる症状のひとつです。記憶が抜け落ち、自分が置き忘れた自覚がないために、取り繕いをします。その結果、身近な人に対し「盗まれた」という疑いの目を向けるようになります。
また、体調不良や環境の変化によって見当識障害が起こり、時間や場所が分からない、幻覚を見る、イライラする、興奮するといった「せん妄」が現われることもあります。

7.介護拒否

本人が介護を拒否し、受け入れない場合があります。認知機能の低下により、介護の意味を理解できない、異性に介護されることへの羞恥心が強い、自立心が高い、不快な体験をしたなどが原因です。また自宅から施設に移るなど、環境や習慣の変化から介護を拒否するケースもあります。

周辺症状には、上記以外に帰宅願望、多弁・多動、異食、失禁・弄便、性的異常などがあります。症状の現れ方には個人差があり、出現する時期などによっても異なります。


認知症が進行し周辺症状が現われてくると、それまでとは人が変わったように感じるかもしれません。しかし、周辺症状は薬物療法や非薬物療法によって症状の緩和へとつなげることができます。まずは、専門医へ相談し、できることから始めてみましょう。