認知症の中核症状を知ろう

認知症の症状は、人によって程度や現れ方に個人差があります。しかし、症状の出現にどのような傾向があるか知っていれば、いざという時に適切なサポートを行うことができます。今回は認知症の症状の中でも、中心となる中核症状についてご紹介します。

目次

認知症の症状には2タイプある

認知症の症状は、大きく2つに分けられます。ひとつめは、脳の神経細胞の働きが低下して起こる「中核症状」です。脳の神経細胞が担っていた役割が失われるために起こる症状で、記憶力や判断力の低下などがこれに該当します。

もうひとつは、中核症状によって二次的に起こる「行動・心理症状(BPSD)」です。周辺症状とも呼ばれ、本人の性格や生活環境、人間関係など複数の要因が絡み合って起こります。気分が落ち込む抑うつ状態、道順を忘れて迷う徘徊、「物を盗られた」などと言う妄想、現実にはないものが見える幻覚、さらに暴力・暴言、失禁、睡眠障害、異食などがあります。

中核症状とは?

中核症状は認知症の本質的な症状であり、認知症になれば誰にでも現れます。具体的には以下の5つがあります。

①記憶障害

認知症の症状の中でも、早い段階から現れるのが記憶障害です。自分の体験した出来事や過去についての記憶が抜け落ちてしまう障害で、時間の経過と共に症状が進行します。人は年を取れば誰でも物の覚えが悪くなったり物忘れが増えたりしますが、認知症では覚えること自体ができなくなります。そして症状が進行するにつれ、覚えていたことも忘れていきます。

例)

  • 病院の受診日を忘れる
  • 食事をしたこと自体を忘れる

②見当識障害

見当識障害とは、自分が置かれている状況が把握できず、「いつ・どこ」といったことや、自分と他人との関係性が分からなくなる障害です。まず時間の認識が乏しくなり、今日の年月日や曜日、時間、季節感を間違えやすくなります。次に場所の認識が薄れ、行きつけのお店への道順が分からなくなる、出先から家に帰れず迷子になるといったことが起こります。さらに症状が進むと人を間違えることが増え、家族や近しい友人であっても認識できない場面が増えます。

例)

  • 冬に半そでを着るなど、季節に合った服を選べなくなる
  • 自宅のトイレの場所が分からなくなる
  • 自分の孫を息子と認識する

③理解・判断力の障害

物事の理解に時間がかかるようになり、適切な判断を下すことが困難になります。また複数のことが重なったり普段と異なる出来事が起きると、混乱してうまく処理できません。あいまいな表現が理解できない、目に見えないものが理解できない、善悪の判断ができないといった症状も見られます。

例)

  • 外出時にその場にふさわしい服装が選べない
  • 銀行のATMの操作ができなくなる
  • 一度にたくさんの話をされると混乱してしまう

④実行機能障害

実行機能障害とは、物事を論理的に考え、計画を立てて効率的に実行することが困難になる障害です。「ご飯を炊く」「おかずを作る」という行為はそれぞれ実行できても、ご飯を炊きながら同時進行でおかずを作ることが難しくなります。また冷蔵庫に残っているネギに豆腐を買い足して味噌汁を作ろうと思っても、お店に着いたら冷蔵庫にあるネギのことをすっかり忘れてネギも豆腐も買ってしまい、買い物の度にネギが増え続けるといったケースもあります。

⑤失語・失認・失行

失語とは、言葉を司る脳の部分が正常に機能せず、聞く・話す・読む・書くといった言葉に関する機能がうまく使えない状態をいいます。相手の質問を理解していても言葉が明瞭に出てこないケースや、言葉は流ちょうに話せるものの相手の話や質問が理解できず、つじつまが合わない言葉を答えるケースがあります。

失認は、視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚が正常に働かなくなります。そのため、自分の身体の状態や周りの物との位置関係が把握できなくなったり、物が何かわからなくなります。例えば、時計を見ても何かわからない、名前がわからない場合などがあります。

失行とは、身体機能的には問題ないにも関わらず、今までの生活で身に着けていた動作が行えない状態や、道具の使い方が分からなくなる場合をいいます。よくある例として、ズボンに腕を通す、セーターの袖に足を通す、ボタンをかけ間違える、ハサミの使い方が分からないなどがあります。


家族や身近な人が認知症になると、それまでの本人との変化に多くの人が戸惑います。しかし、認知症の症状を正しく理解することは、お互いによい関係を築いていくうえでとても大切です。いざという時に適切なサポートできるよう、今のうちから症状についての知識を理解しておきましょう。